売買の意義
売買の予約
売買の予約は、大別すると、次のように分けられる。
- 一方が本契約を締結しようとする申込をすれば、他方がこれを承諾する義務を負うもの
- 片務予約 - 申込をする権利を一方だけが持つ
- 双務予約 - 申込をする権利を双方が持つ
- 一方が本契約を成立させようとする意思表示(予約完結の意思表示)をすれば、他方の承諾を要せずに、本契約が成立するもの
- 一方の予約 - 予約完結権を一方だけが持つ
- 双方の予約 - 予約完結権を双方が持つ
予約完結権
売買の一方の予約において、売買を完結する権利を有する者を予約権利者と言う。
この予約権利者の、売買の効力を発生させる意思表示をする権利を予約完結権と言う。
予約完結権は、相手方(予約義務者)の承諾がなくても譲渡する事が出来る。
また、予約完結権の存続期間を定め得る事は当然として、 もし、定めなかった場合、予約義務者は、相当の期間を定めてその期間ないに売買を完結するか否かを確答すべき旨を予約権利者に催告する事が出来る。もし、予約権利者が、その期間内に確答をなさない場合は、予約はその効力を失う*2(第556条第2項)。
*2これは、法律関係を長く不安定な状態に置く事を避ける趣旨である。
手附
手附の種類には、次の3種類がある。
- 証約手附 - 契約が成立した証拠という趣旨で交付されるもの
- 解約手附 - 手附の金額分の損失を覚悟すれば、相手方に債務不履行がなかったとしても契約を解除できるという趣旨で交付されるもの
- 違約手附 - 契約上の債務を履行しない場合、違約金として没収されるという趣旨で交付されるもの
なお、手附は、解約手附が原則である。
解約手附による解除の要件
解約手附を交付した場合、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、契約を解除する事が出来る(第557条第1項)。
履行の着手の意義
「履行に着手する」とは、履行の準備ではなく、履行行為自体に着手する事だと言って良い。しかし、実際、その区別に関しては必ずしも明確とは言えない。
判例によれば、履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す(最判昭40.11.24)とされる。しかし、この基準はかなり抽象的なものであるから、具体例を以下に示す。
- 第三者所有の不動産の売買契約において、売主が右不動産を買主に譲渡する前提として当該不動産につき所有権を取得し、また、自己名義の所有権取得登記を得た場合には、契約の履行に着手したときにあたる(最判昭40.11.24)。
- 家屋の買主が約定の明渡期限後売主に対ししばしば明瞭を求め、かつ売主が明渡をすればいつでも約定代金の支払いをなしうべき状態にあったときは、現実に右代金の提供をしなくても、契約の履行に着手したものといえる(最判昭26.11.15)。
- 農地の売買において、売主・買主が連署の上、許可申請書を知事宛に提供したときは、売主及び買主は履行に着手したものといえる(最判昭43.6.21)。
当事者の意義
「当事者の一方」とは、相手方のみを指すかのか、それとも、自ら履行に着手した者を指すのか。すなわち、自ら履行に着手した者でも、相手方が履行に着手するまでは解除し得るかが問題となる。
判例によれば、当事者とは相手方のみを指す(最判昭26.11.15)。つまり、自分自身は問題とならない。その理由は以下の通り。
- 当事者の一方が履行に着手したときは、その当事者は、履行の着手に必要な費用を支出しただけでなく、契約の履行にも大きな期待を寄せている。従って、この段階で相手方から契約を解除されると、不測の損害を被ることとなる。このような事態を防止するため、特に557条第1項が設けられたものと解すべきであるから、自ら履行に着手した当事者は、未だ履行に着手していない相手方に対して自由に解除権を行使しうる。
解除による効果
- 買主が解除する場合は手附の放棄、売主が解除する場合は手附を倍返し
- 解除は遡及的な効果を持つ
- 損害賠償請求権は発生しない(第557条 第2項)
- 解約手附による解除は、手附の放棄/手附を倍返しによって、相手方の損害を償う趣旨だから、損害賠償の請求はなしえない。しかし、相手方の債務不履行によって解除する場合は、第557条第2項は適用されず、一般原則どおり、損害賠償の請求は出来る。その場合*3、請求し得る損害賠償の額は、手附の額とは無関係である。
- 手附として契約の際に交付されながら、不履行の場合には買主は手附を没収され、売主は倍額を変換する旨を約定する場合には、その手附は解約手附としての性質を有するだけでなく、債務不履行の場合の損害賠償の予定(第420条第3項)としての性質も有する(つまり、それ以上の請求は出来ない)。
- 主たる債務が最初から無効であったり、後に取消されたり、または、債務不履行もしくは合意によって解除された場合、交付された手附は特約がない限り不当利得として交付者に変換される。
契約当事者の義務
558条は、
売買契約に関する費用は当事者双方平分してこれを負担する
とあるが、実際には、特約を設けてどちらか一方が負担している場合が多い。
買主の義務
代金支払義務
買主は代金支払い義務を負う(第555条)。
代金の支払時期・場所
代金の支払時期(第573条)・場所(第574条)
- 目的物の引渡しについて期限が定められたときは、代金の支払時期もその時と推定される(第573条)。目的物の引渡し、代金の支払時期のいずれも期限の定めがないときは、両者は同時履行の関係に立つ。573条は、公平の見地より規定されたものである。
- 目的物の引渡と代金の支払が同時の時は、目的物の引渡場所を代金の支払場所とする(第574条)。この規定は、同時履行の抗弁権を実質的に保証する規定である。なお、目的物の引渡場所は特約なき限り、一般原則(第484条)による。
- 目的物の引渡と同時に支払う場合でない時や、同時に支払うべきか否か不明の時は、一般原則により、売主の現時の住所において支払うべきである(大判大14.5.25)。
代金の利息
代金の利息(第574条第2項)
- 目的物が引渡される前に果実が生じた時は、その果実は売主に属する*4(第575条1項)。
- 果実が買主に移転するのは引渡があったときに限られるのか。これは575条の趣旨をどのように考えるのかと言う問題に関連する。判例・通説は、引渡*5の他(第575条1項)、代金の支払があった時には買主に移転するとする。引渡をせず登記の移転があったに過ぎない場合は含まれない*6。その理由は、権利が買主に移転した後も売主が目的物を占有している間に果実を生じた場合には、売主は当然、目的物の権利者である買主に果実を引き渡すべきである。他方、売主は他人の所有物を占有・管理していることになるから、買主に対して管理費用の償還を請求できるはずである。そこで民法は、果実を収集する利益と管理費用の差額とを代金の利息に等しいとみて、売主は目的物を引き渡すまでは、果実を取得し、管理費用を負担すると伴に、買主は代金の利息を支払う必要はない、として公平を図ると伴に、当事者間の複雑な法律関係を解決しようとした。
- 売主が引渡を遅滞している場合でも、引渡までは果実を収集し得ると同時に、買主は引渡を受けるまでの期間につき代金を支払う必要がない(大判大13.9.24)。
- 売主が代金支払、供託を受けた時は、売主は遅滞にあると否とを問わず、以後の果実収集権を失う(大判昭7.3.3)。
- 買主は引渡を受けた日から代金の利息を支払う義務を負う(第575条2項本文)。
- 引渡後に支払うべき利息は遅延利息である。利息には遅延損害金も含まれる。
- 買主が代金の支払いを遅延している場合でも、引渡前に利息を支払う必要はない(大判大4.12.21)。
- 代金を支払う時期が定められていれば、引渡を受けても利息を支払う義務がないのは当然である(第575条2項但書)。
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